Prologue

電子マネーが次々に登場、新たなビジネスの可能性を見出す

フィンテック事業において中核的役割を果たした増田と奥原が、アイティアクセス(以下「ITA」)に入社したのは2002年。“組込みソフトウェアの総合商社”として幅広い業種に向けて多彩なソリューションを提供する同社で、それぞれ組込み機器のセキュリティシステムやアプリケーションの開発(増田)と営業(奥原)に従事することに。

折しも当時、国内初の非接触型決済による電子マネー「Edy」やJR東日本の「Suica」(いずれも2001年)などが次々に登場し話題を集めていた。二人は電子マネー決済に新たな可能性を感じ、ミドルウェア開発で取引のあった家電メーカーに、製品への電子マネー決裁機能搭載を提案するが、電子マネーは決済ソリューションを提供する特定企業の独断場で、実績のないITAは門前払いの状況だった。

証言①

「インターネットに接続する機器開発についてはかなりノウハウや実績もあり自信があったのですが、ほとんど相手にされませんでした。でも、それであきらめたわけではなく、その後もチャンスを窺っていました(増田)」

Chapter2

日本HPとのプロジェクトで「電子マネークラウド決済」を事業化

それから10年近くが経過し、電子マネー決済にもクラウド化の波が押し寄せるなか、2013年最初のチャンスが訪れた。日本HP(現DXCテクノロジー・ジャパン)との間で、クラウド型のFeliCa方式決済ミドルウェアの組込み機器共同開発の話が持ち上がったのだ。

ビジネスモデルが定まらず社内調整に手間取るものの、粘り強く社内プレゼンを進めた結果、ようやく「電子マネークラウド決済」の名称で事業化に向けて正式GOサインが出る。一方、日本HPとの契約も条件面の調整で難航するが、2016年3月に販売代理店契約を取り交わすに至る。

Chapter3

飲料自販機にターゲットを定めるが全く案件につながらず

兼務での応援を全社に要請してなんとかクライアントとデモシステムの開発を進めるが、当然すぐには収益につながるわけもなく、その間も組込み受託開発など他の仕事をこなしながらの日々が続いた。開発と並行して飲料自販機にターゲットを定め営業を仕掛けるが、こちらも、どんなプレイヤーがいて誰が決定権を握っているかなど業界構造も分からないまま手探りで、これといった成果が出ないまま1年以上が経過する。

そんななか、2015年5月に東京ビッグサイトで開催された「第18回組込みシステム開発技術展(ESEC)」のITAにてビッグチャンスが訪れる。

証言②

「ESECの弊社ブースでは、飲料自販機を想定した“なんちゃってデモ”を実施していました。そのデモを見た某大手飲料メーカーの方と名刺交換することができ、早速後日アポイントをとり説明に上がりました(奥原)」

Chapter4

ワンストップソリューションで収益を確保し顧客ニーズに応える

某大手飲料メーカーとはその後紆余曲折がありながらも話しが進み、自販機に関する仕様情報などを共有いただきつつ、端末を含むシステムの開発が動き出した。問題はビジネスモデルとスキームをどうするか…。端末販売中心のビジネスモデルは需要を満たしてしまえばそれで終わってしまう。安定した収益構造を実現したいと考えた増田達は、端末保守+認証+LTE回線(SIM処理含む)+データ管理+サポートなど、一式まとめてサブスクリプション型で提供するビジネスモデルを選択する。問い合わせ窓口を一本化したいというお客様ニーズにも応えられるという意味では、極めて合理的かつ必然的な選択であった。

証言③

「当初、端末やネットワークは切り離して、認証の部分だけ最低限の料金で提供することも考えましたが、お客様から「なにかあった時にあちこち問い合わせしなければならないのは面倒だからまとめてほしい」という声が上がり、ならば“ワンストップソリューション”にして付加価値を高めていこうという方向になりました(増田)」

Chapter5

事業部制導入&新規事業部で第二創業を目指す

フィンテックビジネスの可能性が具体的に見えてきた2016年末、ITAは組込みソフトウェア中心の既存ビジネスにフィンテック事業など新たな領域にチャレンジする新規事業部を加え、事業部制に移行する。オープン化で高い収益が望めなくなる組込みソフトウェア・ビジネス以外の新たなビジネスを開拓し、第二創業を目指すための思い切った決断であった。

これにともない、専任スタッフを拡充し開発のペースを上げ、2017年8月、クラウド型決済端末の初号機2400台を某大手飲料メーカーに納入する。

Chapter6

“未知のハードル”を解決しながらシステム開発を進める

2018年1万台、2019年3.5万台と累計出荷台数を順調に伸ばした同社だが、開発の現場は日々課題解決の連続だった。もともとITAは、組込み系ソフトウェア開発を主としてきた会社で、メーカーの立場で決済端末を開発&サポートしたり、決済サービスをクラウド型で提供するための回線やサーバ環境を構築・運用したりといった経験がなかった。特に、インフラ管理を含めサーバ関連はノウハウもリソースもなく、ゼロからのチャレンジであった。

証言④

「都度LTEを介してサーバで認証する方式なので、信頼性・安全性はもとより、ユーザエクスペリエンスにも気を配りました。何よりお金を扱うシステムということで現場のプレッシャーは相当なものだったと思います(奥原)」

Epilogue

決済/認証ソリューションで新たなビジネスを創出

業界大手飲料メーカーへの納入実績もあり、その後ほかの飲料メーカーへの営業で次々と取引を拡大、現在では国内主要飲料メーカーの自販機にITAのソリューションが採用されている。ビジネスの拡大にともないフィンテックチームの陣容も営業や運用保守などを含め拡充、発足時の11名から約3倍となる32名に増え、単独の事業部として独立も決まった。

お客様への導入をさらに進めるために、より低価格な端末の投入や、送客の仕組みなど付加価値強化の取り組みを進めるITA。さらに、飲料自販機以外へのソリューション展開や、購買/個人データを活用したマーケティングサービスなど、いつでも・どこでも決済できる特長を生かした新たなビジネス創出を目指している。

証言⑤

「人が生活するなかで決済が必要になるシーンはあちこちで発生します。究極的には、各家庭に決済ソリューションが入り込む可能性もあります。世界的なキャッシュレス化の潮流を背景に、多様な認証・決済ニーズに応えていきたいと思います(増田)」

証言者Profile

増田 修一
(事業部長 FT事業部)

システムハウスでのマイコン機器開発エンジニア、物流/食品プラントエンジニアなどを経て2002年8月に入社。2020年4月現在、FT事業部の事業部長を務める。

趣味:最近はガーデニング
仕事上のモットー:日常を観察し、まず行動する、そして柔軟に継続する。

奥原 和延
(グループリーダー FT事業部)

2002年8月に入社。組込みソフトウェアのプロダクト担当や新規商材の立ち上げに従事。2013年頃より組込みソフトウェア事業とフィンテック事業の2つの事業を兼務していたが、2018年から正式にフィンテック事業の専任営業となる。2020年4月現在、FT事業部 FT1グループのグループリーダーを務める。