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ご挨拶

EUサイバーレジリエンス法(CRA)の概要とその影響について

セキュリティ認証 コラム 特集

目次

はじめに

2024年に大きな進展を見せ、成立・施行が目前に迫るEUサイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act: CRA)は、EU市場で流通する「デジタル要素を持つ製品(products with digital elements)」のサイバーセキュリティを強化するための包括的な法的枠組みです。本稿では、このCRAの概要、主要な規定、そして製造業者、輸入業者、販売業者、さらには消費者やサイバーセキュリティ市場全体に及ぼす多岐にわたる影響について詳細に解説します。特に、EU域外の企業、とりわけ日本企業が直面するであろう課題と取るべき対応策についても深く掘り下げ、今後の展望と残された課題を考察します。

近年の急速なデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、私たちの生活や経済活動に多大な恩恵をもたらす一方で、サイバー攻撃のリスクをかつてないほど増大させています。特に、インターネットに接続されるIoT(Internet of Things)デバイスの爆発的な普及は、セキュリティの脆弱性を抱えた製品が市場に流通するリスクを高め、個人情報の漏洩、社会インフラの機能不全、経済的損失といった深刻な事態を引き起こす可能性をはらんでいます。

このような背景のもと、EUはサイバーセキュリティを経済安全保障の根幹と位置づけ、これまでにもNIS指令(ネットワークおよび情報システムのセキュリティに関する指令)やサイバーセキュリティ法(Cybersecurity Act)といった法整備を進めてきました。CRAは、これらの取り組みをさらに推し進め、製品ライフサイクルの初期段階(設計・開発)からセキュリティを組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン(Security by Design)」の原則を法的に義務化し、製品の脆弱性への対応体制の構築、透明性の向上を通じて、EU域内のデジタル単一市場における信頼と安全の向上を目指すものです。

本稿は、CRAの複雑な規定内容を整理し、その影響範囲の広さと深さを明らかにすることで、関係者が適切な対応を準備するための一助となることを目的としています。

EUサイバーレジリエンス法の概要

CRAは、デジタル要素を持つ製品に関する統一的なサイバーセキュリティ要件を定めることで、EU市場の機能性を向上させ、消費者と企業双方の信頼を高めることを目的としています。以下にその主な特徴と構成要素を詳述します。

法的根拠と目的

CRAは、EUの製品安全規則の枠組みに基づいており、デジタル要素を持つ製品の自由な移動を確保しつつ、高度なサイバーセキュリティ水準を達成することを目指しています。主な目的は以下の通りです。

製品のライフサイクル全体を通じたセキュリティの確保

設計、開発、製造から廃棄に至るまでの全段階で、サイバーセキュリティ要件を満たすことを義務化します。

脆弱性管理の強化

製造業者に対し、製品の脆弱性を積極的に管理し、迅速に対応することを求めます。

透明性の向上

消費者やビジネスユーザーに対し、製品のセキュリティに関する情報を提供し、より安全な製品を選択できるよう支援します。

単一市場における調和

EU加盟国間で異なる規制が存在することによる市場の分断を防ぎ、統一されたルールを適用します。

適用範囲

CRAは、「デジタル要素を持つ製品」の製造業者、輸入業者、販売業者に適用されます。この「デジタル要素を持つ製品」とは、広義に解釈され、意図された用途において、データ処理を可能にするソフトウェアまたはハードウェアコンポーネントを直接的または間接的に接続するもの、またはそれ自体がそのようなコンポーネントである製品を指します。

具体的には、以下のような製品が対象となり得ます。

ハードウェア製品

スマートフォン、タブレット、PC、ルーター、モデム、IoTデバイス(スマート家電、ウェアラブルデバイス、産業用センサーなど)、ネットワーク機器、産業制御システム(ICS)コンポーネントなど。

ソフトウェア製品

オペレーティングシステム、ファームウェア、アプリケーションソフトウェア、モバイルアプリ、組み込みソフトウェアなど。ただし、SaaS(Software as a Service)のような継続的なサービス提供型のソフトウェアは、NIS2指令やDORA(Digital Operational Resilience Act)など他の法規制の対象となる場合があり、CRAの直接的な適用範囲からは一部除外される可能性がありますが、製品に組み込まれるソフトウェアや、製品の機能を決定づけるソフトウェアは対象となります。

オープンソースソフトウェア

商用活動の一環として提供されるオープンソースソフトウェアも、CRAの対象となる可能性があり、この点は法案策定過程で大きな議論を呼びました。最終的には、重要な製品や、製品のセキュリティ機能に不可欠なオープンソースコンポーネントを提供する法人は、CRAの義務を負うことになりました。

主な義務

CRAは、経済主体(製造業者、輸入業者、販売業者)に対して、製品のライフサイクル全体を通じた様々な義務を課します。

製造業者の義務

セキュリティ・バイ・デザインとデフォルトでのセキュリティ

製品の設計・開発段階からサイバーセキュリティリスクを評価し、適切な対策を講じること。出荷時には、デフォルトで安全な設定になっていること。

脆弱性管理プロセス

製品の市場投入後、発見された脆弱性を効果的に処理するためのプロセスを確立し、維持すること。これには、脆弱性の特定、分析、修正、ユーザーへの通知が含まれます。

情報提供と指示

製品のセキュリティ機能、安全な使用方法、脆弱性情報の入手方法などをユーザーに明確に提供すること。

適合性評価

製品がCRAの要件を満たしていることを示すための適合性評価手続きを実施し、EU適合宣言書を作成すること。

CEマーキング

適合性評価をクリアした製品にCEマークを付すこと。

脆弱性の報告

発見された脆弱性やインシデントについて、ENISA(欧州ネットワーク・情報セキュリティ機関)に24時間以内に報告する義務があります。

最低5年間のサポート

製品の市場投入後、少なくとも5年間(または製品の期待寿命まで)、セキュリティアップデートを提供し、脆弱性に対応する義務があります。

輸入業者の義務

EU域内に持ち込む製品がCRAの要件に適合していることを確認する義務。
製造業者が適切な適合性評価手続きを行い、技術文書を作成し、CEマークを付していることを確認する。
製品が安全でないと判断した場合、市場への提供を中止し、関係当局に通知する。
自身の名称、登録商号または登録商標、連絡先住所を製品に表示する。

販売業者の義務

製品を取り扱う際に、CRAの要件に注意を払う義務。
製品にCEマークが付され、必要な文書が添付されていることを確認する。
製品が安全でないと判断した場合、市場への提供を中止し、関係当局に通知する。

製品の分類と適合性評価

CRAは、製品のサイバーセキュリティリスクに応じて、製品をいくつかのクラスに分類し、異なる適合性評価手続きを要求します。

デフォルト(一般)クラス

リスクが低いと見なされる製品。製造業者は自己評価により適合性を宣言できます。

クリティカルクラスIおよびII

リスクが高いと見なされる製品。ルーター、ファイアウォール、産業用制御システム、スマートメーターなどが該当する可能性があります。これらの製品については、第三者機関(Notified Body)による適合性評価が必要となる場合があります。

適合性評価には、内部統制に基づく評価、EU型式審査、品質マネジメントシステムに基づく評価など、モジュールに応じた手続きが定められています。

市場監視と執行

EU加盟国の市場監視当局は、CRAの遵守状況を監督し、違反行為に対して是正措置や罰則を科す権限を持ちます。ENISAは、脆弱性情報の収集・分析、加盟国間の協力促進、ガイドライン策定など、中心的な役割を担います。

罰則は高額になる可能性があり、例えば、CRAの必須要件への違反に対しては、全世界の年間総売上高の最大1500万ユーロまたは2.5%のいずれか高い方が科される可能性があります。情報提供義務違反など、その他の違反に対しても、それぞれ罰金の上限が設定されています。

施行スケジュール

CRAは、EU官報に掲載されてから20日後に発効します。その後、多くの規定は段階的に適用が開始されます。

発効から21ヶ月後(2026年9月11日): 製造業者による脆弱性およびインシデントの報告義務が適用開始。
発効から36ヶ月後(2027年12月11日): その他のほとんどの義務が適用開始。

このスケジュールは、企業がCRAの複雑な要件に対応するための準備期間を考慮したものです。

EUサイバーレジリエンス法が及ぼす広範な影響

CRAの施行は、EU域内外の様々なステークホルダーに対し、広範囲かつ深遠な影響を及ぼすことが予想されます。本章では、企業(特に製造業者)、消費者、サイバーセキュリティ市場、そして国際関係への影響を詳細に分析します。

企業への影響

CRAは、デジタル要素を持つ製品を扱うあらゆる企業、特に製造業者にとって、事業戦略、製品開発プロセス、コスト構造、サプライチェーン管理に至るまで、抜本的な見直しを迫るものです。

製造業者(EU域内および域外)への影響

製品開発・設計プロセスの変革

  • セキュリティ・バイ・デザイン/デフォルトの徹底

これまでアドオン的に対応されることの多かったセキュリティ対策を、製品の企画・設計段階から不可欠な要素として組み込む必要があります。脅威モデリング、リスクアセスメント、セキュアコーディング、脆弱性テストといった活動が、開発ライフサイクルの初期から体系的に実施されるようになります。

  • ソフトウェア部品表(SBOM)の導入促進

製品に含まれるソフトウェアコンポーネント(オープンソースを含む)を網羅的に把握し、それぞれの脆弱性を管理するために、SBOMの作成と維持が事実上不可欠となります。CRAはSBOMの提供を直接的に義務付けているわけではありませんが、脆弱性管理義務を果たす上で極めて有効な手段となります。

  • デフォルトでのセキュアな設定

製品出荷時の設定が、ユーザーによる追加設定なしに最大限のセキュリティを提供するように構成される必要があります。例えば、推測しやすいデフォルトパスワードの廃止、不要なポートの無効化などが求められます。

ライフサイクル全体を通じた脆弱性管理体制の構築

  • 継続的な脆弱性監視と対応

製品出荷後も、新たに発見される脆弱性情報を継続的に収集・分析し、迅速に修正パッチを開発・提供する体制を構築・維持する必要があります。これには、専門チームの設置や外部サービスの活用が考えられます。

  • ENISAへの報告義務

重大な脆弱性やインシデントを発見した場合、24時間以内にENISAおよび関係各国のCSIRT(Computer Security Incident Response Team)に報告する義務が生じます。これは、インシデント対応プロセスの迅速化と透明性の確保を求めるものです。

  • 最低5年間のセキュリティサポート

製品の市場投入後、最低5年間(または製品の期待耐用年数)はセキュリティアップデートを提供し、脆弱性に対応する義務が生じます。これは、製品のライフサイクルが長期化するIoTデバイスなどにとって、特に大きな負担となる可能性があります。

コスト増への対応

  • 開発コストの増加

セキュリティ専門家の雇用や育成、新たな開発ツールやプロセスの導入、第三者機関による評価などにより、製品開発コストが増加します。

  • 適合性評価コスト

特にクリティカルクラスに分類される製品については、第三者機関による適合性評価が必要となり、その費用負担が発生します。

  • 脆弱性管理コスト

継続的な脆弱性監視、パッチ開発、インシデント対応、ユーザーへの通知など、製品出荷後の管理コストも増加します。

  • ドキュメント作成・維持コスト

技術文書、適合宣言書、ユーザー向け情報などの作成と適切な管理にもコストがかかります。

サプライチェーン全体でのセキュリティ確保

  • コンポーネント供給元の選定基準の変化

自社製品に組み込むハードウェア・ソフトウェアコンポーネントの供給元に対しても、CRAへの適合性やセキュリティ体制の確認が求められるようになります。サプライヤーとの契約内容の見直しや、セキュリティ監査の実施が必要となる場合があります。

  • サプライチェーンの透明性向上

製品のセキュリティは、最も脆弱なコンポーネントに左右されるため、サプライチェーン全体での情報共有と連携が不可欠です。

中小企業(SME)への影響

  • リソースと専門知識の不足

中小企業にとっては、CRAが要求する高度なセキュリティ体制の構築や専門知識の獲得、適合性評価の実施などが大きな負担となる可能性があります。資金調達、人材確保、情報収集といった面で課題に直面しやすく、競争上の不利が生じる懸念があります。

  • 支援策の必要性

EUや各国政府による、中小企業向けのガイドライン提供、技術支援、資金援助などの支援策が重要となります。

競争環境の変化

  • セキュリティが競争優位性の源泉に

CRAへの適合は、単なるコンプライアンス対応に留まらず、製品の信頼性や安全性をアピールする要素となり得ます。セキュリティを重視する企業にとっては、市場での競争優位性を確立する好機となる可能性があります。

  • 市場からの排除リスク

CRAの要件を満たせない企業は、EU市場へのアクセスが制限されたり、最悪の場合は市場から排除されたりするリスクがあります。

イノベーションへの影響

  • 短期的な制約の可能性

厳格なセキュリティ要件や適合性評価手続きが、製品開発のスピードを遅らせたり、新しい技術やアイデアの導入を躊躇させたりする可能性が指摘されています。

  • 長期的なイノベーション促進

一方で、セキュアな製品開発が標準化されることで、ユーザーの信頼が高まり、長期的には新たなデジタル技術やサービスの普及を後押しし、イノベーションを促進するという見方もあります。セキュリティを前提とした新しいビジネスモデルが生まれる可能性も期待されます。

グローバル市場への影響(ブリュッセル効果)

  • 事実上の国際標準となる可能性

EUは巨大な経済圏であり、CRAがEU市場でビジネスを行う企業にとっての必須要件となることで、EU域外の企業もCRAに準拠した製品開発を行うようになり、結果としてCRAがサイバーセキュリティに関する事実上の国際標準(デファクトスタンダード)となる「ブリュッセル効果」が期待されています。これにより、グローバルレベルでの製品セキュリティの底上げが図られる可能性があります。

  • 日本企業への直接的な影響

EU市場にデジタル要素を持つ製品を輸出している、あるいは将来的に輸出を計画している日本企業は、CRAの要件を遵守する必要があります。これは、自動車、家電、産業機械、医療機器、ソフトウェアなど、幅広い分野の日本企業に影響を及ぼします。

輸入業者・販売業者への影響

コンプライアンス確認義務の強化

輸入業者は、EU市場に製品を投入する前に、製造業者がCRAの義務(適切な適合性評価、技術文書の作成、CEマーキングなど)を果たしていることを確認する責任を負います。この確認を怠った場合、輸入業者自身が法的責任を問われる可能性があります。

サプライヤー管理の重要性

信頼できる製造業者を選定し、そのコンプライアンス状況を継続的に監視する必要性が高まります。

情報伝達の役割

製造業者から提供されるセキュリティ情報を正確に把握し、必要に応じて販売業者や最終顧客に伝達する役割が求められます。

不適合製品への対応

市場で不適合な製品を発見した場合、速やかに市場からの回収や関係当局への報告を行う義務があります。

販売業者も同様に、取り扱う製品がCRAの基本的な要件(CEマーキング、必要なドキュメントの添付など)を満たしているかを確認する注意義務を負います。

ソフトウェア開発者(特にオープンソースソフトウェア)への影響

CRAのオープンソースソフトウェア(OSS)への適用は、法案策定段階で最も議論を呼んだ点の一つです。最終的な条文では、完全に非営利で開発・提供されるOSSはCRAの直接的な義務の対象外となる一方で、「商用活動(commercial activity)」の一環として提供されるOSSは、その開発主体がCRAの製造業者としての義務を負うことになりました。

「商用活動」の解釈

何が「商用活動」に該当するかの解釈が重要となります。例えば、企業が開発を主導し、有償サポートや関連サービスと共に提供しているOSS、あるいは企業が自社製品の重要なコンポーネントとして開発・提供しているOSSなどが対象となる可能性があります。OSSプロジェクトをホストする財団なども、その運営方法や資金調達方法によっては、CRAの義務を負う主体と見なされる可能性があります。

OSSコミュニティへの影響

  • 開発プロセスの変更

CRAの対象となるOSSプロジェクトは、セキュア開発ライフサイクル(SDL)の導入、脆弱性管理プロセスの確立、ドキュメント作成といった対応が必要となり、開発プロセスや体制の変更を迫られる可能性があります。

  • 貢献者への影響

個々のコントリビューターに直接的な法的義務が課されるわけではありませんが、プロジェクト全体のコンプライアンス体制が強化される中で、コードの品質やセキュリティへの意識向上が求められるでしょう。

  • OSSの利用企業への影響

OSSを利用する企業は、利用するOSSコンポーネントがCRAの対象となるか、また、開発元が適切に対応しているかを確認する必要性が生じます。SBOMの活用が一層重要になります。

  • 懸念と期待

一部のOSSコミュニティからは、CRAがOSSの自由な開発やイノベーションを阻害するのではないかという懸念も表明されています。一方で、OSSのセキュリティと信頼性が向上し、企業がより安心してOSSを活用できるようになるという期待もあります。EUは、OSSコミュニティへの影響を考慮し、CRAの適用に関するガイドライン等で明確化を図っていくものと思われます。

消費者への影響

CRAは、消費者にとって多くのメリットをもたらすことが期待されます。

製品のセキュリティ向上

市場に流通する製品のセキュリティレベルが全体的に向上し、マルウェア感染、個人情報漏洩、不正アクセスといったリスクが低減します。

透明性の向上と情報に基づいた選択

製造業者は製品のセキュリティ機能やサポート期間に関する情報提供を義務付けられるため、消費者はより多くの情報を基に、安全な製品を選択できるようになります。

脆弱性への迅速な対応

製造業者による脆弱性管理と迅速なアップデート提供が義務化されることで、製品購入後も長期間にわたり安心して製品を使用できるようになります。

信頼性の向上

CEマーキングは、製品がEUの基本的なサイバーセキュリティ要件を満たしていることを示す一つの目安となり、消費者の信頼を高めます。

長期的なコスト削減の可能性

サイバー攻撃による被害からの復旧コストや、セキュリティ対策が不十分な製品を買い替えるコストなどが削減される可能性があります。
ただし、製品価格への転嫁や、一部のニッチな製品が市場から姿を消すといった可能性もゼロではありません。

サイバーセキュリティ市場への影響

CRAは、サイバーセキュリティ関連の製品やサービス市場に大きな変化をもたらし、新たなビジネスチャンスを生み出すと予想されます。

セキュリティ関連サービス・製品の需要急増

コンサルティングサービス

CRAへの対応支援(ギャップ分析、体制構築、ドキュメント作成支援など)

適合性評価・監査サービス

第三者機関による評価、内部監査支援

脆弱性診断・ペネトレーションテストサービス

  • 製品の脆弱性検査
  • セキュア開発ライフサイクル(SDL)導入支援ツール・サービス
  • SBOM作成・管理ツール
  • 脅威インテリジェンスサービス
  • インシデント対応支援サービス
  • セキュリティ人材育成・トレーニングサービス

新たな技術やソリューションの開発促進

CRAの要件を満たすための新しいセキュリティ技術や、コンプライアンスを効率化するソリューションの開発が活発化するでしょう。

市場の成熟と専門性の向上

サイバーセキュリティ市場全体の専門性が高まり、より高度で信頼性の高いサービスが求められるようになります。

認証ビジネスの拡大

適合性評価を行うノーティファイドボディ(Notified Body)の役割が重要となり、関連する認証ビジネスが拡大する可能性があります。

国際関係への影響

CRAは、EU域内にとどまらず、国際的な貿易やサイバーセキュリティ政策にも影響を与える可能性があります。

ブリュッセル効果の顕在化

前述の通り、EU市場の規模と影響力から、CRAがデジタル製品のサイバーセキュリティに関するグローバルスタンダードとなる可能性があります。EUに製品を輸出する多くの国や企業が、CRAの基準に準拠する動きを見せることで、世界的なサイバーセキュリティレベルの底上げが期待されます。

国際的な標準化への影響

CRAの要件が、ISOやIECといった国際標準化機関における議論に影響を与え、新たな国際標準の策定を促す可能性があります。

貿易摩擦の可能性

一部の国や企業からは、CRAが非関税障壁として機能し、自由な貿易を阻害するとの懸念が示される可能性もあります。特に、CRAの要件への対応が困難な開発途上国の企業にとっては、EU市場へのアクセスが難しくなるかもしれません。

各国における同様の法規制導入の動き

EUの先進的な取り組みに追随し、各国で同様のサイバーセキュリティ規制を導入する動きが加速する可能性があります。日本においても、経済産業省などがCRAの動向を注視しており、国内法整備の参考とする動きが見られます。

日本企業が取るべきEUサイバーレジリエンス法への対応策

EU市場でビジネスを展開する、あるいは将来的に目指す日本企業にとって、CRAへの対応は避けて通れない課題です。以下に、日本企業が取るべき具体的なステップと考慮事項を提示します。

現状分析とギャップ分析の実施

自社製品のCRA適用範囲の確認

自社が製造・販売する製品の中に、CRAの定義する「デジタル要素を持つ製品」に該当するものがどれだけあるか、正確に把握します。ハードウェアだけでなく、製品に組み込まれるソフトウェアや、単体で提供されるソフトウェアも対象となる点に注意が必要です。

現在のセキュリティ対策とCRA要件との比較

設計・開発プロセス、脆弱性管理体制、情報提供の仕組みなど、CRAが要求する項目と自社の現状を比較し、ギャップを明確にします。

製品のリスク分類の特定

自社製品がCRAのどのリスククラス(デフォルト、クリティカルI、クリティカルII)に該当するかを評価します。これにより、必要な適合性評価手続きが異なります。

サプライチェーンの確認

製品に使用しているサードパーティ製のコンポーネント(ハードウェア、ソフトウェア、OSS)の供給元や、そのセキュリティ体制についても把握し、リスクを評価します。

セキュリティ体制の構築・強化

セキュリティ・バイ・デザイン/デフォルトの導入

  • 製品開発ライフサイクル(SDLC)にセキュリティ活動を統合する(セキュアSDLCの確立)。
  • 開発の初期段階からの脅威モデリング、リスクアセスメントの実施。
  • セキュアコーディング標準の策定と徹底、開発者への教育。
  • 設計レビュー、コードレビューにおけるセキュリティ観点の強化。
  • 脆弱性テスト(静的解析、動的解析、ファジング、ペネトレーションテストなど)の体系的な実施。

脆弱性管理プロセスの確立と運用

  • 製品出荷後の脆弱性情報を収集・監視する仕組み(社内、外部情報源、ユーザーからの報告など)の構築。
  • 発見された脆弱性の深刻度評価、トリアージ、修正対応、テスト、パッチリリースのプロセスを定義し、実行する専門チーム(PSIRT: Product Security Incident Response Teamなど)の設置または機能強化。
  • 脆弱性情報をユーザーに適切に開示するためのポリシーと手順の策定。
  • ENISAへの24時間以内の報告体制の整備。

ソフトウェア部品表(SBOM)の作成と管理

製品に含まれる全てのソフトウェアコンポーネントをリスト化し、バージョン情報やライセンス情報と共に管理する体制を整備します。SBOMは、脆弱性管理やサプライチェーンリスク管理の基礎となります。

インシデント対応計画の策定と訓練

サイバー攻撃や重大な脆弱性が発見された場合の対応手順を明確にし、定期的な訓練を通じて実効性を高めます。

ドキュメント作成と情報提供体制の整備

技術文書の作成と維持

CRAが要求する技術文書(設計資料、リスクアセスメント結果、テストレポート、脆弱性管理プロセスの説明など)を整備し、製品のライフサイクルを通じて最新の状態に維持します。

EU適合宣言書の作成

適合性評価手続きを完了した後、製品がCRAの要件に適合していることを示すEU適合宣言書を作成します。

ユーザー向け情報の提供

製品の意図された用途、セキュリティ機能、安全な設定方法、脆弱性情報の入手方法、サポート期間、セキュリティアップデートの提供方法などを、明確かつ理解しやすい形でユーザーに提供します。取扱説明書やウェブサイトなどを活用します。

サプライチェーン管理の見直し

サプライヤーに対するセキュリティ要求事項の明確化

部品やソフトウェアを供給するサプライヤーに対し、CRAへの適合性やセキュリティ体制に関する要求事項を明確に伝え、契約に盛り込むことを検討します。

サプライヤーの監査・評価

サプライヤーのセキュリティ体制や開発プロセスを評価し、必要に応じて監査を実施します。

OSSの利用ポリシー策定

商用利用するOSSについて、CRAの適用可能性を評価し、脆弱性管理体制が確立されているか、ライセンス条件は遵守されているかなどを確認するプロセスを整備します。

法務・コンプライアンス部門との連携強化

CRAの法規制内容を正確に理解し、社内規程やプロセスへの反映を進めます。
契約書(顧客向け、サプライヤー向け)にCRA関連の条項を盛り込むことを検討します。
市場監視当局からの問い合わせや、インシデント発生時の法的対応に備えます。

従業員教育と意識向上

開発者、製品管理者、品質保証担当者、営業担当者など、関連する全部門の従業員に対し、CRAの概要と自社への影響、各自の役割について教育を実施します。
サイバーセキュリティに関する意識を全社的に高め、セキュアな製品開発・提供が企業文化として根付くよう取り組みます。

専門家(コンサルタント、認証機関など)の活用

CRAへの対応には高度な専門知識が要求されるため、必要に応じて外部のコンサルタントやセキュリティ専門企業の支援を受けることを検討します。
クリティカルクラスの製品については、ノーティファイドボディ(認証機関)との連携が必須となります。早期にコンタクトを取り、適合性評価の準備を進めます。

業界団体や関連省庁との情報連携

業界団体が主催するセミナーやワーキンググループに参加し、CRAに関する最新情報や他社の対応事例を収集します。
経済産業省や総務省、情報処理推進機構(IPA)などが発信する情報を注視し、必要に応じて相談や支援を求めます。

今後の展望と課題

CRAは、デジタル化が進む現代社会において、サイバーセキュリティの重要性を改めて浮き彫りにし、製品の安全性を向上させるための画期的な試みと言えます。しかし、その施行と運用にはいくつかの展望と課題が存在します。

施行に向けた準備と円滑な移行

ガイドラインと標準化の進展

EU委員会やENISAは、CRAの具体的な運用に関する詳細なガイドラインや、関連する技術標準の整備を進めることになります。これらの情報が早期に、かつ明確に提供されることが、企業の円滑な対応には不可欠です。特に、中小企業やOSSコミュニティへの配慮が求められます。

ノーティファイドボディの体制整備

クリティカルクラス製品の適合性評価を担うノーティファイドボディの数や能力が、需要に対して十分であるかどうかが課題となります。体制整備が遅れれば、製品の市場投入に遅延が生じる可能性があります。

企業側の対応期間

CRAの多くの規定が適用開始となるのは発効から36ヶ月後ですが、製品開発サイクルやサプライチェーンの複雑さを考慮すると、決して十分な時間とは言えません。企業は早期に対応準備に着手する必要があります。

技術の進展と法規制の整合性

AI、機械学習、量子コンピューティングなどの新技術への対応

AI搭載製品や、将来的に量子コンピューティング技術を活用した製品など、新たなテクノロジーが登場する中で、CRAがそれらの特性に応じた適切なセキュリティ要件をカバーできるか、継続的な見直しとアップデートが必要となるでしょう。

ソフトウェアの進化の速さへの追随

ソフトウェアは常に進化し、新たな脆弱性が発見されるため、法規制が技術の進歩に遅れを取らないようにするための仕組みが重要です。

国際的な協調と調和の推進

グローバルな基準としての受容

CRAが「ブリュッセル効果」を発揮し、事実上の国際標準となるためには、EU域外の国々との対話と協力が不可欠です。相互認証の仕組みや、各国の規制との整合性を図る努力が求められます。

貿易障壁とならないための配慮

CRAが過度な負担となり、特に開発途上国の企業のEU市場へのアクセスを不当に制限する結果とならないよう、国際的な議論を通じて調整が行われることが期待されます。

残された課題と懸念点

中小企業への過度な負担

支援策が講じられるとしても、中小企業がCRAの要求に完全に対応することの困難さは依然として残ります。イノベーションの担い手である中小企業の活力を損なわないような運用が求められます。

OSSコミュニティとの建設的な対話

OSSへの影響については、今後も議論が続くと予想されます。OSSの持つオープン性やイノベーションの力を損なうことなく、セキュリティを向上させるためのバランスの取れたアプローチが必要です。

執行体制の均一性と実効性

EU加盟国間での市場監視や罰則の適用にばらつきが生じないよう、ENISAを中心とした連携強化と、実効性のある執行体制の確立が重要です。

「セキュリティ」と「イノベーション」のバランス

過度な規制がイノベーションを阻害するという懸念は常に存在します。CRAがセキュリティ向上に貢献しつつも、自由な発想や迅速な製品開発を過度に抑制しないような、適切なバランスを見出すことが長期的な課題となります。

まとめ:サイバーレジリエンス新時代への備え

EUサイバーレジリエンス法(CRA)は、デジタル製品のセキュリティ基準を大幅に引き上げ、EU市場における信頼性と安全性を向上させることを目的とした、野心的かつ包括的な規制です。その影響はEU域内にとどまらず、グローバルなサプライチェーン全体に及び、特にEU市場に製品を提供する日本企業にとっては、事業戦略の根幹に関わる重要な変化となります。

CRAが要求するセキュリティ・バイ・デザインの原則、ライフサイクル全体を通じた脆弱性管理、透明性の向上といった取り組みは、短期的には企業にとってコスト増となる側面があるものの、長期的には製品の競争力強化、ブランドイメージの向上、そして何よりもユーザーからの信頼獲得に繋がるものです。

日本企業は、CRAの動向を座して待つのではなく、これを自社の製品セキュリティと開発プロセスを見直し、強化する好機と捉え、早期に具体的な対応に着手することが求められます。現状分析から始め、セキュリティ体制の構築、サプライチェーン管理の見直し、そして全社的な意識改革を進めることが、このサイバーレジリエンス新時代を乗り切るための鍵となるでしょう。

CRAは、サイバー空間における安全・安心の実現に向けた大きな一歩であり、その成否は、規制当局、企業、そして我々一人ひとりの取り組みにかかっています。この新たな法的枠組みが、より安全で信頼性の高いデジタル社会の実現に貢献することを期待し、本稿がその一助となれば幸いです。

なお弊社ではEUサイバーレジリエンス法案を始めとする各国セキュリティ規制に対応したワンストップ型セキュリティ認証サービスを提供しています。
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